ご 挨 拶 | ![]() |
私が人の優しさに大きな感動を得た貴重な体験は42歳のときでした。もちろんそれまでも幼きころから、周りの人の愛や優しさには触れていましたが、日常のことでそれほど感動することもなく当たり前のように甘えて受け取っていることが多かったと思います。また逆に私からの優しさの心も一方的で、喜びの結果もなかったように思います。
そうなのです!ホスピタリティと云われる相互の喜びは感じなかったのでしょう。
それが42歳のときでした、その年に父が腎臓癌の手術で動脈瘤が破裂をして、手術後1週間でこの世を去りました。ちょうどその前の年から大切な息子が急性白血病で治療に専念しておりましたが、6ヶ月間の初期の治療もむなしく余命1年の宣告を受けておりました。
息子の発病は小学校5年の11月、11歳でした。 ここでは多くは語れませんが言葉に表せないショックでございました。
このような環境の中、息子を助けてほしい一心で医学書を探して書店に行った時、ある本を発見いたしました。それは今は亡き白血病の娘さんと過ごした米人家族の日記でした。
この本の題名を見たときは、読むことが怖く感じたのですが勇気をもって買って帰り、息子が眠った病室で朝まで読みました。 「いま親がこの子に出来ることは祈ることではなく、残された少ない時間が楽しく過ごせるようにすることだ。」このような内容で笑い声の聞こえる日々の生活が書かれていました。
発病してから私は仕事を休んで、ずっと息子と病室で毎日を祈りながら暮らしていましたが、この本を読んでから「今は悲しむときではない、治療は信頼する医師に任せて私はこの息子が毎日楽しく笑って過ごせるようにしよう!」
病室でも二人で工夫をして楽しく過ごしたり、外出が出来る日はバイクの後ろで街の隅々まで見て喜ぶ姿に、今日も生きていて良かったと感謝をしました。
いよいよ外出は最後になるだろうと医師から告げられたとき、テレビを見て行きたいと言っていたディズニーランドに行くことにしました。 しかし医師からは血小板輸血のタイムリミットは2日間、必ず2日目の夜は病院に帰るように言われておりました。
ディズニーランドは、誰もが楽しむところというより、誰もが楽しませてくれるところでした。長い病院生活で足も弱くなって少し支えられて歩く息子に、入場と同時に明るい声でスタッフが息子に話しかけ、これが楽だからと車椅子を勧められて、日ごろは嫌がって乗らなかった息子が何のためらいもなく乗ったのには驚きました。 この自然な二人の行動は単なるサービスや接客マニュアルからのものではなく、また可愛そうだと思う心からでもなく、本当に心から楽しんでもらいたいと云う素直な行動に、息子も反応したのだと思いました。
さすが目当てのジェットコースターは長蛇の列でした。最後尾に並ぶと待ち時間は約1時間30分、あっという間に後ろにも待つ人が増えてきました。そのとき一人の整理係と思われる方が「実はプラットホームへは階段を登らなければなりませんが~」と言って来られたので、私はせっかく楽しみに来ましたので、ゆっくり登りますので大丈夫ですと答えました。
しばらくすると先ほどの彼が戻ってきて、一緒に来た上司のような方が「私がご案内させていただきますのでこちらへどうぞ!」と私たちを施設の裏側からエレベーターでプラットホームまで案内していただき、なんとジェットコースターの先頭車両に乗せていただきました。
あれだけ多く待っている方がおられたのに、私たちを何だろうと思われるのではないかと考え、本当に申し訳ない気持ちでしたが、満面に喜ぶ息子の顔を見て、最後の旅行に最高のプレゼントを貰ったことを、心の中からこみ上げる感謝の涙を必死にこらえました。
決してスタッフはこの子供が最後の旅行に来たことや重い病気であることは知らなかったことでしょう。スタッフの優しい心遣いが私たちには最高のプレゼントだったのです。
帰途で息子の体調は変化し始めましたが、病院に帰るのを嫌がり一日多く自宅で過ごし、翌日急いで輸血をしましたが下血も始まり、それ以後病室で寝たきりとなりました。
機嫌の良いある日のこと、ゴジラのフィギュアを組み立てて自分で色を塗りたいと言い出したので、さっそく模型店やデパートなど電話で問い合わせましたが全く在庫がなく、直接製造メーカーの海洋堂様へ電話をしたところメーカーにもなく、途方にくれるように、電話口でしばらく沈黙の状態だったのでしょう、「サンプルでもよろしければ」と言っていただき自宅の住所を知らせて送っていただきました。病気だと知られて同情を求めるような行為はしたくなかったからです。
それから一ヶ月後に息子は静かにこの世を去り、四十九日が過ぎてまだ悲しみの中、いままで頂いた喜びと感動を感謝を込めて各会社様宛に御礼状を出しました。
対応されたスタッフの方々は、私たちが決してこのような状況だったとは思われなかったでしょうが、自然に対応された優しい行為が私たちには最高の喜びを与えていただきました。世の中には決して裕福で楽しい方ばかりが遊んだり、泊まったり、物を買ったりするのではなく、私たちやそれ以上の状況の方もいらっしゃることでしょう。そして優しい対応で幸せを頂くことが出きるのだと、これがホスピタリティだと私自身が貴重な体験をいただきました。
この感動の大切な想い出を、働くスタッフの方々に伝え、お客様に喜びと感動を得ていただき自らも喜びを持ちたいと願い、息子の一周忌を終えてホテルのスタッフとなりました。
そしていま私は国内・海外の研修やリゾートホテル、観光旅館などで得た知識、経験、実績でホスピタリティの大切さを基に顧客満足度アップの接客マナー、販売促進企画の提案など、皆様方のお役に立てる仕事をさせていただきたいと願って業務を展開しております。講演・研修をとおして皆様方のお役に立てれば幸いです。
みさごMisago
篠岡 良尚
YoshihisaShinooka